
陶芸作家 櫻井康司氏 インタビュー(長野県松本)
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12月に入り、櫻井さんに髪の毛のカットをして頂く為に、長野県松本市に向かった。
ヘアサロン「Pairo hair」などのオーナーでありながら、陶芸作家として作陶を続ける櫻井康司さんに休日にも関わらずカットして頂いた後みお話を伺いました。
ヘアサロン Pairo hair(長野県松本市):https://pairohair.com/
陶芸家までの道のりを教えて下さい
長野県松本市に生まれ、育ちました。東京都国分寺の美容専門学校を卒業後、吉祥寺の美容院に3年ほど勤め、松本に帰ってきました。30歳の時に独立し、ヘアサロン「Pairo hair(パイロヘア)」を開業しました。店名は、電話で噛みにくいような破裂音で、お菓子のアポロのような可愛らしいイメージを持った造語です。開業してから20年、ここ松本で美容院のオーナーを勤めています。
松本は松本駅には特急あずさが停車し、四方が山に囲まれている盆地で標高が高く、最近春秋は短く、夏は湿度が低く過ごしやすい土地です。冬が長いですが、日本海側や北アルプスに雪が降り積もるお陰で積雪はそこまで無く、降っても2~3センチ程度で、5年に一度くらい50センチ積もるかどうか、という感じですが、マイナス10℃になったり、最高気温が0℃以下の日があったりと、やはり寒いです。車は寒冷地仕様ですし、スタッドレスタイヤが必須ですね。陶芸への影響は、冬にはすぐ土が凍ってしまいます…。
陶芸との出会いは5年ほど前になります。趣味が多肉植物の収集でして、作家鉢がなかなか購入できず、自分で植木鉢を作ってみようと陶芸教室に通い出したのがきっかけですね。思い返せば子供の頃からものづくりが好きでした。
うつわなども作っていましたが、その頃から殆ど植木鉢を作っていました。自宅に電動ろくろなどを揃え、ネットショップで作り始めたのが2~3年前、コロナ期間中でしたね。美容院は閑散期と繁忙期があり、手が空いている時はバックヤードで削ったり、裏で礫(つぶて)を付けたりもしています(笑)今ではお陰様で、自分のネットショップや、香港などの外国から、そしてOMBLEさんなどに卸販売したりしています。
作陶について教えて下さい
粘土は、黒土か白土を使っています。白土の場合は、黒土を独自の調合で混ぜていて、白に少し黒味掛かるように調整しています。稀に赤土も使いますが、殆どが黒か白ベースの作品です。
電動ろくろでかなり分厚く成形します。基本一個挽きで、殆どの完成作品の重量が1キロ前後なので、かなりの重量の粘土で成形を始めます。1.5~2キロくらいで使用しているしょうか…。成形後、ある程度の固さまで乾燥してから削りを入れます。
「黒獣」(こくじゅう)は、獣の爪で激しく引っかいたようなイメージの作品です。削りは最初に横のラインを削った後、縦の爪痕を小刀で抉り出すよう、その時のイメージで器体全体を抉り削っていきます。全体を丁寧に削った後、完全に乾かしてから、爪痕のエッジ部分を、ラジオペンチを使って折っていきます。手間暇を掛けることで、自然且つイレギュラーな爪痕感を出しています。
「tsubute」(つぶて)は、分厚く成形した器体に、礫を荒々しく貼り付けている作品です。全体的に削った後、乾燥する前に「礫」を器体に強く押し込んで埋め込み、付着する部分に黒土ベースの泥漿をスポイトでかけて剥がれ落ちないように処理を施します。使用する礫は、失敗した作品などをペンチで砕いたものを再利用しています。
「黒獣」は、削りの際に器体を抉り出し、「tubute」は削った後に礫を器体に押し込んで接着させる必要があるので、分厚く成形する必要があります。植木鉢としては、分厚い焼締め鉢の方が、鉢自体が水分を吸ってくれるので根の成長に良いですね。
こだわりは乾燥の時間です。器体が完全に乾くまでかなり長い日数をかけて乾かします。長ければ長いほど良いですね。この長時間乾燥によって、作品の成功率を高めていると思います。特に「tsubute」は、生乾きの器体に完全に乾いた礫を貼り付けているのでラップをかけたりて一週間くらい乾燥させると、あまり割れたり失敗しませんね。
完全に乾いてから「黒獣」の爪痕部分に施釉します。釉薬は、スポイトと細筆で行います。爪痕以外に施釉はしないので、基本的に焼締めの植木鉢という事になりますね。
いよいよ、素焼きを兼ねた本焼きをガス窯で行います。「一発本焼き」と呼んでいて、教室の先生に教わった方法です。ドアを少し開けた状態で窯のスイッチを入れ、火を入れ水分を肌で感じながら350℃近くでドアを締め、600℃近くで酸素が入る穴を締め、荒い素焼きを終えてそのままの状態で本焼きに移ります。窯を炊いてから約9時間後の930℃から還元し始め、約13時間後の1250℃まで温度を上げた後、空気が入る穴を開けてスイッチを切ります。ガス窯なので手間暇がかかりますね。そこからドアを開けるまで、ゆっくり時間をかけて冷まし、2~3日後に窯のドアを開きます。先程の乾燥時間と、この取り出すまでの時間をかけることで、成功の確率を上げています。取り出して後処理して、ようやく完成となります。
作陶への想い
美容院の経営をしているため、作陶出来る時、出来ない時期があって、美容師は3月、7月、12月が繁忙期なんですね。3月は4月の新しい年度への準備、7月は暑くさっぱりしたい、12月はお正月までに髪を切りたくなる為にお店が予約で埋まってしまう。この時期以外は、仕事終わりでも自宅でろくろを回していますね。疲れてても陶芸は出来ます!
美容師はジャムセッションだと思っています。お客様と美容師で即興で形を作っていく。陶芸は素材から全部自分でプロディースしてものづくり出来るのが本当に楽しいです。ジャムセッションも大好きなんですけど、自分で決めてものづくりしていくのも大好きなんです。限られた素材で、限られた道具で、限られた表現方法で作るのは、美容師と陶芸が似ている、共通していると思っています。
とにかく忙しいのが好きで、今の美容院の経営と陶芸家の両立は本当に楽しくて、今のライフスタイルは満足しています。当面の夢は、ガス窯を陶芸の先生に借りて焼成しているのですが、自宅横に小屋を作って、酸化還元できる電気窯を設置することです。窯さえあれば死ぬまで陶芸できますよ!
OMBLE:最後までお読み頂きまして誠に有難うございました。
唯一無二の存在感を放つ「黒獣」シリーズ。実際に植物が趣味の櫻井さんならではの発想で、根の成長に良い焼締め鉢を時間と手間暇を惜しまず作陶されていることがお話から伝わってきました。年の瀬の月曜日、お休みの日に無理言って開けて頂き、カットして頂いた上に貴重なお話まで沢山楽しくお話し頂き、有難うございました!これから末永く一緒に頑張っていきましょう!